編集：Sonal Chokshi，a16z
翻訳：Tim，PANews
原文リンク：
原文リンク：
01 ステーブルコイン、RWA、決済と金融
より良く、よりスマートなステーブルコインの入出金チャネル
昨年、ステーブルコインの取引量は推定46兆ドルに達し、歴史的な新高値を更新し続けています。具体的には、これは決済プラットフォームPayPalの取引量の20倍以上に相当し、世界最大級の決済ネットワークであるVisaの取引量の約3倍に近く、米国自動決済機関ACH（ACHは直接預金などの金融取引を処理する電子ネットワーク）の取引規模に急速に迫っています。
現在、ステーブルコインの送金は1秒未満で完了し、コストは1セント未満です。しかし、未解決の課題は、これらの暗号資産を人々の日常的な金融インフラとどのように接続するかという点です。言い換えれば、ステーブルコインと従来の通貨の交換チャネルを構築することです。
新世代のスタートアップがこのギャップを埋めており、ステーブルコインを主流の決済システムや現地通貨と結びつけています。ある企業は暗号認証技術を通じて、現地口座残高とデジタルドルの交換を可能にしています。別の企業は地域決済ネットワークに接続し、QRコードやリアルタイム決済システムなどの機能を活用して銀行間送金を実現しています。さらに、真の相互運用性を持つグローバルなデジタルウォレットレイヤーや発行プラットフォームを構築し、ユーザーが日常の店舗でステーブルコイン決済を利用できるようにする企業もあります。これらのイノベーションはデジタルドル経済への参加範囲を広げ、ステーブルコインが主流決済手段となることを加速させる可能性があります。
これらの入出金チャネルが成熟するにつれ、デジタルドルは現地の決済システムや商業ツールボックスに直接接続されるようになり、全く新しい行動パターンが生まれます。労働者はリアルタイムで国境を越えた給与を受け取ることができ、商人は銀行口座なしでグローバルに流通するデジタルドルを受け取ることができ、決済アプリは世界中のユーザーと即時に価値を決済できます。ステーブルコインは根本的に、周辺的な金融ツールからインターネットの基礎決済レイヤーへと変貌します。
——Jeremy Zhang，a16z crypto エンジニアリングチーム
より暗号ネイティブな方法でRWAとステーブルコインを理解する
私たちは、銀行、フィンテック企業、資産運用会社が米国株式、コモディティ、インデックスなどの伝統的資産をオンチェーン化することに強い関心を示しているのを観察しています。より多くの伝統的資産がオンチェーン化されるにつれ、そのトークン化はしばしば形式的なものにとどまり、現実世界資産の既存の概念に限定され、暗号ネイティブな特性を十分に活用できていません。
しかし、パーペチュアル契約のような合成商品は、より深い流動性を提供でき、通常は実装も容易です。パーペチュアル契約は理解しやすいレバレッジメカニズムも提供するため、私はこれが最も強いプロダクト・マーケット・フィットを持つ暗号ネイティブなデリバティブだと信じています。同時に、新興市場株式はパーペチュアル契約化に最も適した資産クラスの一つだとも考えています。（一部の株式のゼロデイオプション市場の流動性は現物市場を上回ることさえあり、これはパーペチュアル契約化の興味深い実験例となるでしょう。）
結局のところ、これは「パーペチュアル契約化とトークン化」の選択の問題です。しかし、いずれにせよ、今後1年でより多くの暗号ネイティブなRWA資産のトークン化が見られると予想されます。
同様の考え方で、2026年までに、より多くのステーブルコインが「ネイティブ発行」されるのを目にするでしょう。ステーブルコインは2025年に主流となり、発行済みステーブルコインの数は継続的に増加しています。
しかし、強力な信用インフラを欠くステーブルコインは、狭義の銀行のように見えます。これらは超安全資産と見なされる特定の流動性資産を保有しています。狭義銀行は合法的な金融商品ですが、長期的にはオンチェーン経済の柱にはならないと私は考えています。
最近、多くの新しい資産運用者、キュレーター、プロトコルが登場し、オフチェーン資産を担保にオンチェーンで資産担保ローンを提供し始めています。これらのローンは通常、まずオフチェーンで発行され、その後トークン化されます。私は、この分野でのトークン化にはほとんど利点がないと考えています。オンチェーンユーザーに割り当てる場合を除いてです。だからこそ、債務資産はオフチェーンで発行してからトークン化するのではなく、オンチェーンで発行すべきです。オンチェーン発行はローン管理コストやバックエンド構造コストを削減し、アクセス性を高めます。課題となるのはコンプライアンスと標準化ですが、開発者たちはすでにこれらの問題解決に取り組んでいます。
——Guy Wuollet, a16z crypto ゼネラルパートナー
ステーブルコインが銀行台帳のアップグレードサイクルと新たな決済シーンを切り開く
銀行が運用するソフトウェアシステムは、現代の開発者にとってはしばしば馴染みのないものです。1960～70年代、銀行業界は大型ソフトウェアシステムの先駆者でした。第2世代のコアバンキングシステムは80～90年代に登場（例：TemenosのGLOBUSやInfoSysのFinacle）しましたが、これらのソフトウェアはすでに老朽化し、更新も遅いのが現状です。そのため、銀行業界、特に預金や担保、その他の債務を記録する重要なコア台帳システムは、今なお大型メインフレーム上でCOBOL言語で動作し、APIではなくバッチファイルインターフェースでやり取りしています。
世界の大部分の資産は、これら数十年の歴史を持つコア台帳に依存しています。これらのシステムは長年の実績があり、規制当局からも信頼され、複雑な銀行業務に深く統合されていますが、同時にイノベーションの妨げにもなっています。リアルタイム決済などの重要な機能追加には数ヶ月から数年かかり、技術的負債や規制の複雑さを乗り越える必要があります。
ここにステーブルコインの意義があります。過去数年は、ステーブルコインがプロダクト・マーケット・フィットを見つけて主流化した時期であり、今年は伝統的金融機関がこれまでにない姿勢で受け入れています。ステーブルコイン、トークン化預金、トークン化国債、オンチェーン債券は、銀行やフィンテック企業、金融機関が新しい商品を開発し、新たな顧客にサービスを提供することを可能にします。さらに重要なのは、これらの機関に、何十年も安定稼働してきた従来システムを書き換えることを強いる必要がない点です。したがって、ステーブルコインは機関のイノベーションに新たな道を提供します。
——Sam Broner
インターネットバンキング化
インテリジェントエージェントが大規模に登場し、ますます多くの商業活動がユーザーのクリックではなくバックグラウンドで自動的に行われるようになると、通貨から価値への流れ方も変わる必要があります。
意図によって駆動され、逐次的な指示ではない世界では、AIエージェントがニーズを認識し、義務を履行し、結果をトリガーすることで資金を動かし、価値は今日の情報伝達のように迅速かつ自由に流れる必要があります。これこそがブロックチェーン、スマートコントラクト、オンチェーンプロトコルの出番です。
スマートコントラクトはすでに数秒でグローバルなドル決済を完了できます。しかし2026年には、x402のような新しいプリミティブが決済をプログラム可能かつ応答性のあるものにします。エージェント同士は請求書発行や照合、バッチ処理なしで、データ、GPU計算力、APIコールの即時かつ許可不要な支払いを実現します。開発者がリリースするソフトウェアアップデートには、組み込みの支払いルール、上限、監査トラッキング機能が備わり、法定通貨の統合やマーチャントオンボーディング、金融機関の介入は不要です。予測市場はイベント進行に合わせてリアルタイムで自動清算され、オッズが動的に更新され、エージェントが自由に取引し、グローバルなペイアウト決済が秒単位で完了します。これらはすべてカストディアンや取引所の関与なしで実現します。
価値がこのように流れるようになると、「支払いフロー」はもはや単独のオペレーションレイヤーではなく、ネットワーク行動へと変わります。銀行はインターネットの基礎パイプとなり、資産はインフラとなります。通貨がインターネットでルーティング可能な情報パケットに変わると、インターネットは金融システムの支えであるだけでなく、それ自体が金融システムとなります。
——Christian Crowley and Pyrs Carvolth, a16z crypto GTMチーム
ウェルスマネジメントの大衆化
伝統的に、パーソナライズされたウェルスマネジメントサービスは銀行の高額資産顧客専用の領域でした。なぜなら、カスタマイズされたアドバイスを提供し、さまざまな資産クラスで個別のポートフォリオ構成を実現するには高コストかつ非常に複雑だからです。しかし、より多くの資産クラスがトークン化され、暗号チャネルを通じて、AIレコメンドや協調システムによるパーソナライズ戦略が即時かつ低コストで実行・リバランスできるようになりました。
これは単なるロボアドバイザーの範疇ではありません。今や誰もがアクティブなポートフォリオ管理にアクセスでき、パッシブ運用に限定されなくなりました。2025年には伝統的金融機関が暗号資産（直接投資またはETP経由）への投資エクスポージャーを増やしましたが、これは始まりに過ぎません。2026年には「資産保全」だけでなく「資産成長」のためのプラットフォームが続々と登場します。フィンテック企業（RevolutやRobinhoodなど）や中央集権型取引所（Coinbaseなど）は、そのテクノロジースタックの優位性を活かして、より多くの市場シェアを獲得するでしょう。
同時に、Morpho VaultsのようなDeFiツールは、資産を最適なリスク調整後リターンを持つレンディング市場に自動配分し、ポートフォリオにコアとなるインカム資産配分を提供します。余剰流動性残高を法定通貨ではなくステーブルコインで保有し、RWAマネーマーケットファンドに投資することで、従来のマネーマーケットファンドよりもリターン向上の可能性が高まります。
最後に、個人投資家は今やプライベートクレジット、未上場企業、プライベートエクイティなど流動性の低いプライベートマーケット資産にも簡単に投資できるようになりました。トークン化はこれら市場の潜在力を解放しつつ、コンプライアンスや報告要件も満たします。バランスの取れたポートフォリオ内の各種資産がトークン化されることで（リスク範囲は債券、株式からプライベート投資、オルタナティブ投資まで）、資金移動などの手続きなしで自動リバランスが可能となります。
——Maggie Hsu, a16z crypto GTMチーム
02 AIとエージェント
「Know Your Customer（KYC）」から「Know Your Agent（KYA）」へ
インテリジェントエージェント経済の制約要因は、知能レベルからアイデンティティ認証へと移行しつつあります。
金融サービス業界では、「非人間アイデンティティ」の数が人間従業員の96倍を超えていますが、これらのアイデンティティは依然としてアカウントを持たない幽霊のような存在です。ここで欠けている重要な基盤がKYA、すなわち「Know Your Agent」です。
人間がローンを得るために信用スコアが必要なように、エージェント（AIエージェント）も取引を行うためには暗号署名付きの証明書が必要です。これらの証明書はエージェントとその権限主体、操作制限、責任帰属を結びつけます。この仕組みが整うまでは、マーチャントはファイアウォールレベルでエージェントをブロックし続けるでしょう。数十年かけて構築されたKYCインフラは、今や数ヶ月でKYAの課題を解決しなければならなくなっています。
——Sean Neville，Circle共同創業者、USDCアーキテクト、現Catena Labs CEO
私たちはAIを活用して研究を行うようになる
数理経済学者として、今年1月には汎用AIモデルに自分のワークフローを理解させるのが難しかったのですが、11月には博士課程の学生を指導するように抽象的な指示を出せるようになり、時には新規かつ正しい答えを返してくれることもありました。私の個人的な体験だけでなく、AIがより広範な研究分野、特に推論分野で応用されているのを目の当たりにしています。現在のモデルは科学的発見を直接支援できるだけでなく、Putnam数学コンテストの問題（おそらく世界で最も難しい大学レベルの数学試験）も自力で解答できるようになっています。
この種の研究支援ツールがどの分野に最大の恩恵をもたらし、どのように機能するかは、まだオープンな問題です。しかし私は、AI研究が新しいタイプの博学的研究スタイルを生み出し、評価するようになると予想しています。このスタイルは、異なる概念間の関連を推測し、より推測的な答えから迅速に推論できる能力を重視します。これらの答えは必ずしも正確ではありませんが、正しい方向を示すことができます（少なくともあるトポロジー構造の下では）。皮肉なことに、これはモデルの幻覚を操る力に似ています。モデルが十分に「賢い」場合、発散的な思考の抽象空間を与えることで、無意味な内容が生まれることもありますが、時には画期的な発見を生み出すこともあります。これは人間が非線形的で明確な方向性がない思考で最も創造性を発揮するのと同じです。
このような推論には新しいAIワークフローが必要です。単一エージェント間のやり取りだけでなく、エージェントがエージェントをネストするパターン、つまり多層モデルを通じて研究者が初期モデルの研究アイデアを評価し、徐々にノイズを排除して価値ある内容を抽出する方法です。私はこの方法で論文を書いていますし、他の人は特許検索や新しいアートフォームの創造、あるいは（残念ながら）新しいスマートコントラクト攻撃の発見に使っています。
しかし、このようなエージェントネスト型研究システムを運用するには、モデル間のより良い相互運用性と、各モデルの貢献を認識し合理的に報酬を与える仕組みが必要です。これこそが暗号技術が解決を支援できる2つの重要な課題です。
——Scott Kominers，a16z cryptoリサーチチームメンバー、ハーバードビジネススクール教授
オープンネットワークの見えない税金
AIエージェントの台頭は、オープンネットワークに見えない税金を課し、その経済基盤を根本から覆そうとしています。この変革は、インターネットのコンテキスト層と実行層の間のミスマッチが激化していることに起因します。現在、AIエージェントは広告に依存するウェブサイト（コンテキスト層）からデータを抽出し、ユーザーに利便性を提供する一方で、コンテンツ制作を支える収益チャネル（広告やサブスクリプションモデルなど）を体系的に回避しています。
オープンネットワークの侵食を防ぎ、AIの発展を支える多様なコンテンツを守るためには、大規模な技術的・経済的ソリューションの導入が必要です。これには新世代のスポンサーシップスキーム、アトリビューションシステム、その他新しい資金調達モデルが含まれるかもしれません。既存のAIライセンス契約も、AIによるトラフィック損失分のごく一部しか補償されておらず、根本的な解決策にはなっていません。
ネットワークには価値が自動的に流れる新しい技術経済モデルが必要です。今後1年の重要な転換点は、静的なライセンスからリアルタイムかつ利用量ベースの補償メカニズムへの移行です。これには、ブロックチェーンによるナノペイメントや精密なトレーサビリティ基準を活用し、AIエージェントのタスク完了に貢献したすべてのエンティティに自動的に報酬を与える仕組みのテストと普及が求められます。
——Liz Harkavy, a16z crypto投資チーム
03 プライバシーとセキュリティ
プライバシーは暗号分野で最も重要な参入障壁となる
プライバシーはグローバル金融のオンチェーン化に不可欠な要件ですが、これは今日ほぼすべての既存ブロックチェーンに欠けている特性でもあります。ほとんどのブロックチェーンにとって、プライバシー機能は後付けの補足機能にすぎません。
しかし今や、プライバシー自体がブロックチェーンを他と差別化する十分な要素となっています。さらに重要なのは、プライバシーがオンチェーンのロックイン効果、すなわちプライバシーネットワーク効果を生み出すことです。特に、性能だけでは競争で抜きん出ることができない現代においてはなおさらです。
ブリッジプロトコルを使えば、すべての情報が公開されている限り、異なるブロックチェーン間の移行は非常に簡単です。しかし、プライベート情報が関わると状況は一変します。トークンのブリッジは簡単ですが、秘密のブリッジは非常に困難です。プライベートゾーンに出入りする際には、監視されているブロックチェーン、メモリプール、ネットワークトラフィックから身元が特定されるリスクが常にあります。プライベートチェーンとパブリックチェーン、あるいは2つのプライベートチェーン間の境界を越えると、取引時間や規模の相関など様々なメタデータが漏洩し、追跡が容易になります。
多くの同質化した新チェーン（競争により手数料がゼロに近づく可能性が高く、ブロック空間に本質的な違いがない）と比べ、プライバシーを備えたブロックチェーンはより強いネットワーク効果を形成しやすいのです。現実には、「汎用型」パブリックチェーンに活発なエコシステムやキラーアプリ、分散優位性がなければ、ユーザーや開発者がそれを使ったり構築したりする理由はほとんどありませんし、ましてや忠誠心を持つこともありません。
パブリックチェーンを使う場合、他のチェーンのユーザーと簡単に取引でき、どのチェーンに参加するかは重要ではありません。しかし、プライベートチェーンを使う場合、どのチェーンを選ぶかは極めて重要です。一度参加すると移行の可能性が低くなり、プライバシー漏洩のリスクも負うため、勝者総取りの状況が生まれます。現実の多くの用途でプライバシー保護が不可欠なため、少数のプライバシー保護チェーンが暗号市場全体を支配する可能性があります。
——Ali Yahya, a16z cryptoゼネラルパートナー
未来のメッセージングは量子耐性だけでなく分散化も必要
世界が量子時代に備える中、Apple iMessage、Signal、WhatsAppなどの暗号技術ベースの通信アプリは先駆的な役割を果たし、素晴らしい貢献をしています。しかし問題は、すべての主流通信ソフトが単一組織運営のプライベートサーバーへの信頼に依存していることです。これらのサーバーは政府によるシャットダウン、バックドアの埋め込み、秘密データの強制提出の標的になりやすいのです。
もし国家が個人のサーバーを停止でき、企業がプライベートサーバーの鍵を持ち、あるいは企業がサーバー自体を所有しているなら、量子暗号に何の意味があるのでしょうか？プライベートサーバーは「私を信じて」に依存しますが、サーバーレスなら「誰も信じる必要がない」状態になります。通信に仲介企業は不要です。情報伝達にはオープンプロトコルが必要で、誰も信じる必要はありません。
これを実現する方法はネットワークの分散化です。プライベートサーバー不要、単一アプリ依存なし、すべてオープンソースコード、量子計算にも耐える最高レベルの暗号技術を備えます。オープンネットワークでは、個人、企業、非営利団体、国家のいずれも通信能力を奪うことはできません。ある国や企業がアプリを停止しても、翌日には500の新バージョンが現れます。ノードが停止しても、ブロックチェーンなどの経済インセンティブにより新ノードがすぐに代替します。
人々が通貨を所有するように秘密鍵で自分の情報を所有できるようになれば、すべてが変わります。アプリは消えても現れても、情報とアイデンティティは常にユーザー自身がコントロールし、最終的にエンドユーザーが自分の情報を本当に所有できるようになります。
これは量子耐性や暗号技術を超えた問題です。それは所有権と分散化に関わる問題です。どちらか一方が欠ければ、私たちが構築するのは見かけ上堅牢でもいつでも停止可能な暗号システムに過ぎません。
——Shane Mac, XMTP Labs共同創業者兼CEO
プライバシー・アズ・ア・サービス
すべてのモデル、エージェント、自動化プロセスの背後には、シンプルな要素、すなわちデータがあります。しかし今日、ほとんどのデータパイプラインは、入力も出力も不透明で変動しやすく、監査も困難です。これは一部の消費者向けアプリでは許容されるかもしれませんが、多くの業界やユーザー（金融や医療分野など）では、企業は機密データのプライバシーを守る必要があります。同時に、これはRWAトークン化を目指す多くの機関が直面する主な障害でもあります。
では、プライバシーを守りつつ、安全・コンプライアンス・自主性・グローバルな相互運用性を実現するにはどうすればよいのでしょうか？方法は多々ありますが、ここではデータアクセス制御に注目したいと思います。機密データを誰がコントロールし、どのように流通し、誰（または何）がアクセスできるのか？
データアクセス制御メカニズムがない場合、データ機密性を確保したいユーザーは、現在、中央集権型サービスプラットフォームに依存するか、カスタムシステムを構築するしかありません。この方法は時間もコストもかかり、伝統的金融機関などがオンチェーンデータ管理の機能的優位性を十分に発揮するのを妨げています。インテリジェントエージェントシステムが自律的に閲覧・取引・意思決定を始める中、業界横断のユーザーや機関は「ベストエフォートの信頼モデル」ではなく、暗号認証メカニズムを必要としています。
だからこそ私は「プライバシー・アズ・ア・サービス」が必要だと信じています。この新技術は、プログラム可能なネイティブデータアクセスルール、クライアントサイド暗号化、分散型鍵管理を提供し、誰がどの条件下で、どの時間範囲で、どのデータを復号できるかを正確に制御し、すべてオンチェーンで実行します。検証可能なデータシステムと組み合わせることで、データプライバシー保護はインターネット基盤の公共インフラの中核となり、もはや事後的なアプリ層のパッチではなく、本当の基盤インフラとなります。
——Adeniyi Abiodun, Mysten Labs共同創業者兼CPO
「コード・イズ・ロー」から「ルール・イズ・ロー」へ
最近、実戦で鍛えられたDeFiプロトコルがハッキング被害に遭いました。これらのプロジェクトは強力なチーム、厳格な監査プロセス、長年の安定運用実績を持っていましたが、これらの事件は不安な現実を浮き彫りにしました。現在の業界のセキュリティ基準は、依然として個別事例や経験的判断に大きく依存しているのです。
成熟に向けて、DeFiセキュリティは脆弱性パターンから設計レベルへ、「ベストエフォート」から「原則主義」へと転換する必要があります。
静的デプロイメントやデプロイ前段階（テスト、監査、形式的検証）では、手動で選別した局所的不変条件だけでなく、グローバルな不変条件を体系的に検証する必要があります。現在、複数のチームが開発中のAI支援証明ツールは、技術仕様の作成や不変条件の仮定を支援し、これまでコスト高の要因だった手作業による証明作業を大幅に削減できます。
動的・デプロイ後段階（ランタイム監視、ランタイム実行など）では、これらの不変条件が動的ガードレール、すなわち最後の防衛線となります。これらのガードレールは、すべての取引が満たすべきランタイムアサーションとして直接コード化されます。
こうすることで、すべての脆弱性が発見されることを前提とするのではなく、コード内で重要なセキュリティ属性を強制し、それに違反する取引は自動的にロールバックされます。
これは理論だけではありません。実際、ほぼすべての脆弱性攻撃は実行過程で何らかのセキュリティチェックに引っかかり、ハッキングを阻止できる可能性があります。したがって、かつて流行した「コード・イズ・ロー」の理念は「ルール・イズ・ロー」へと進化しました。新たな攻撃手法であっても、システムの完全性を維持するセキュリティ属性を満たさなければならず、残された攻撃手段は取るに足らないか、極めて困難なものとなります。
——Daejun Park, a16z cryptoエンジニアリングチーム
04 その他のトラックとアプリケーション
予測市場はより大きく、広く、スマートになる
予測市場は徐々に主流となり、来年は暗号資産やAIとの融合により、さらに大きく、広く、スマートになりますが、同時に起業家たちに新たな課題ももたらします。
まず、より多くのコントラクトが上場されます。これにより、主要な選挙や地政学的イベントのリアルタイムオッズだけでなく、さまざまなニッチな結果や複雑なクロスイベントのリアルタイムオッズも取得できるようになります。これらの新しいコントラクトが登場し、より多くの情報をもたらし、ニュースエコシステムの一部となることで（すでに現実となっています）、重要な社会的課題が浮上します。すなわち、これらの情報の価値をどのように評価し、より透明で監査可能、かつ多様な可能性を持つように設計を最適化するかという問題です。これこそが暗号資産が実現できることです。
コントラクト数の大幅増加に対応するためには、コントラクトの真偽を検証する新しいコンセンサスメカニズムが必要です。中央集権型プラットフォームの裁定（特定イベントが発生したかどうか、どう確認するか）は重要ですが、ゼレンスキー訴訟やベネズエラ大統領選のような論争事例はその限界を露呈しています。これらのグレーゾーンを解決し、予測市場をより実用的な分野へ拡大するためには、新しい分散型ガバナンスメカニズムや大規模言語モデルオラクルが、論争結果の事実判定に役立つでしょう。
AIは予言能力の面で驚くべき可能性を示しています。例えば、これらのプラットフォーム上で動作するAIエージェントは、グローバルに取引シグナルをスキャンし、短期的な取引優位性を獲得できます。これは認知世界の新しい次元を発見し、未来イベントの予測能力を高めるのに役立ちます。これらのエージェントは人間が相談できる高度な政治アナリストとしてだけでなく、その戦略を研究することで複雑な社会イベントの予測要因を明らかにすることもできます。
予測市場は世論調査に取って代わるのでしょうか？いいえ、予測市場は世論調査をより良くします（しかも世論調査の情報も予測市場に入力できます）。政治学者として私が最も興味があるのは、予測市場が豊かで活発な世論調査エコシステムとどのように協調するかですが、調査体験を改善するためにAIなどの新技術を活用し、暗号資産で新しい方法を提供し、調査回答者がロボットではなく実在の人間であることを証明する必要があります。
——Andy Hall，a16z cryptoリサーチアドバイザー、スタンフォード大学政治経済学教授
ベット型メディアの台頭
いわゆる客観性は、伝統的メディアモデルにおいてすでに亀裂が生じています。インターネットは誰もが発信できるチャネルを与え、より多くの運営者、実務家、ビルダーが直接公衆に語りかけています。彼らの意見は世界における利害関係を反映しており、直感に反して、視聴者はそれを尊重し、むしろそのために歓迎されています。
ここでのイノベーションはソーシャルメディアの台頭ではなく、暗号ツールの登場により、人々が公開かつ検証可能なコミットメントを行えるようになったことです。AIによって無限のコンテンツが安価かつ容易に生成され、あらゆる意見やアイデンティティ（実在・架空問わず）で何でも主張できる時代には、人間（やロボット）の発言だけでは不十分です。トークン化資産、プログラム可能なロックアップ、予測市場、オンチェーン履歴は信頼のより堅固な基盤を提供します。コメンテーターは主張を発表すると同時に、実際に自分がリスクを取っていることを証明できます。ポッドキャストホストはトークンをロックして、機会主義的な売買や「ポンプ・アンド・ダンプ」をしていないことを示せます。アナリストは予測を公開決済市場と連動させ、監査可能なトラックレコードを作成できます。
これは「ベット型メディア」の初期形態だと思います。このメディアは「利害関係者である」ことを認めるだけでなく、それを証明できます。このモデルでは、信頼性は中立を装うことや口先だけの主張からではなく、公開かつ検証可能なコミットメントに対応する実際のリスクを取る意志から生まれます。ベット型メディアは他のメディア形態を置き換えるものではなく、既存メディアの補完です。それは新しいシグナルを提供します。「私を信じて、私は中立だ」ではなく、「これが私が引き受けるリスクであり、あなたはこうやって私の言葉を検証できる」というものです。
——Robert Hackett，a16z crypto編集チーム
暗号資産は新しい基礎構成要素を提供し、その応用範囲はブロックチェーンを超えている
長年にわたり、SNARKs（計算を再実行せずに計算結果を検証できる暗号証明技術）は主にブロックチェーン分野に限定されてきました。そのオーバーヘッドは非常に大きく、証明生成に必要な作業量は計算自体の100万倍にもなります。このオーバーヘッドが何千もの検証ノードに分散される場合は価値がありますが、他の用途では非現実的でした。
この状況はまもなく変わります。2026年までに、zkVMプローバーのオーバーヘッドは約1万倍にまで低下し、メモリ使用量も数百MBで済むようになります。その時点で、スマートフォンでもスムーズに動作し、コストもどこでも展開できるほど低くなります。1万倍という数字が重要なのは、ハイエンドGPUの並列スループットがノートPCのCPUの約1万倍だからです。2026年末までには、単一GPUでCPUの実行証明をリアルタイム生成できるようになります。
これは、古い研究論文にあったビジョン、すなわち検証可能なクラウドコンピューティングを実現するかもしれません。すでにクラウド上でCPUワークロードを実行している場合、計算量がGPU化に十分でなかったり、専門知識がなかったり、レガシーシステムの理由であっても、合理的な価格で計算結果の正しさを暗号的に証明できるようになります。プローバー自体はGPU向けに最適化されており、あなたのコードは調整不要です。
——Justin Thaler，a16z cryptoリサーチチーム、ジョージタウン大学コンピュータサイエンス准教授
軽い取引、重い構築
取引を中継点とし、終着点としないことが暗号企業の経営の道です。
現在、ステーブルコインや一部のコアインフラを除き、発展中の暗号企業のほとんどが取引事業への転換または転換計画を進めているようです。しかし「すべての暗号企業が取引プラットフォームになったら」業界はどうなるでしょうか？多くの企業が同じことに殺到すれば、ほとんどの参加者は共食い状態に陥り、最終的に少数の勝者しか残りません。これは、取引に急いで転向した企業が、より防御力があり持続可能なビジネスモデルを構築する機会を逃すことを意味します。
企業の財務運営を維持しようと努力する創業者には同情しますが、即時のプロダクト・マーケット・フィットを追求することには代償も伴います。暗号分野ではこの問題が特に顕著です。トークンや投機を巡る独特の雰囲気が、創業者をプロダクト・マーケット・フィットの追求から即時満足の追求へと誘導しがちです。これはまるでマシュマロ実験のようです。
取引自体は悪いことではなく、市場の重要な機能ですが、最終目的地である必要はありません。「プロダクト・マーケット・フィット」の「プロダクト」部分に集中する創業者こそが、最終的な勝者となる可能性が高いでしょう。
——Arianna Simpson, a16z cryptoゼネラルパートナー
法律と技術が一致したとき、ブロックチェーンの全潜在力が解放される
過去10年間、米国でブロックチェーンを創設する最大の障害の一つは法的不確実性でした。証券法が乱用され、選択的執行が行われ、創業者はブロックチェーン用ではなく一般企業向けの規制枠組みに従わざるを得ませんでした。長年にわたり、企業は法的リスク低減をプロダクト戦略の代わりとし、エンジニアが脇役、弁護士が主役となっていました。
この状況は多くの奇妙な現象を生みました。創業者は不透明性を保つよう助言され、トークン配布は法的回避のために恣意的になり、ガバナンスはパフォーマンス化し、組織構造はコンプライアンスのためだけに設計され、トークン設計は経済価値やビジネスモデルを意図的に回避しました。さらに悪いことに、規則の隙間を突く暗号プロジェクトが誠実なビルダーよりも成功することが多かったのです。
しかし暗号市場構造規制について、政府はかつてないほど法制化に近づいており、来年にはこれらの歪みがすべて解消される可能性があります。法案が可決されれば、業界の透明性が促進され、明確な基準が確立され、資金調達、トークン発行、分散化プロセスにより明確な構造的道筋が与えられ、現在の「執行ルーレット」的な規制状態に取って代わります。GENIUS法案可決後、ステーブルコインは爆発的に成長しました。暗号市場構造を巡る立法はさらに大きな変革をもたらしますが、今回は主にネットワークエコシステムが対象となります。
言い換えれば、この種の規制により、ブロックチェーンは真にネットワークとして機能し、オープン、自律、コンポーザブル、信頼できる中立性、分散化を維持できるようになります。
——Miles Jennings，a16z crypto政策チーム兼チーフリーガルカウンセル
原文を読む
