トランプ氏が自分のカジノを開設へ

文 | Sleepy.txt
編集 | Kaori

 

10月28日、Trump Media & Technology Groupは、自社のソーシャルプラットフォームTruth Socialで予測市場プロダクト「Truth Predict」をローンチすると発表した。CEOは声明で、このプラットフォームはより多くの人々が情報の判断や予測に参加できるようにし、人々が単に発言するだけでなく、自分の判断を賭け金で検証できるようにすることを目指していると述べた。

これは、トランプファミリーによる予測市場分野での三度目の重要な布石となる。

2025年1月には、ドナルド・トランプ・ジュニア（Donald Trump Jr.）が戦略顧問として規制下の予測プラットフォームKalshiに参加していた。

同年8月、彼が設立したベンチャーキャピタル1789 Capitalは、Kalshiの主要な競合である暗号予測市場Polymarketの新たな資金調達ラウンドをリード投資した。Polymarketはニューヨーク証券取引所の親会社ICEからも投資を受け、評価額は90億ドルに達するプラットフォームであり、取引完了後、トランプ・ジュニアもその顧問委員会に加わった。

一つのファミリーが、同じ分野の三つのコア企業で要職を占めるのは、伝統的なベンチャー投資の論理からすれば非常に異例な行動だ。

CoinFundのマネージングパートナーChris Perkinsは「ベンチャーキャピタルの観点から言えば、通常は競合するプロジェクトには投資しない。最終的な勝者に賭けたいからだ」と述べている。

トランプファミリーは明らかにこうした常識的な論理を気にしていない。彼らが求めているのは勝利ではなく、確実性だ。

予測市場は今、爆発的成長の臨界点にある。投資運用会社Certuityの調査レポートによれば、2035年までにこの業界の規模は955億ドルに達し、年平均成長率は46.8%にも及ぶという。現在、PolymarketとKalshiが市場シェアの96%以上を支配している。

主流予測市場プラットフォームのシェア割合｜出典：Dune

この新たな分野の魅力は、「情報」そのものが初めて明確な価格を持ち、市場で自由に売買できるようになったことだ。2024年米大統領選の期間中、こうしたプラットフォームは従来の世論調査よりも敏感で「真実のエンジン」としての可能性が高いと複数のメディアに称賛された。

なぜなら予測市場では、価格は統計的な数字ではなく、何千何万もの人々が実際に資金を賭けて形成した結果であり、アンケートよりもリアルタイムで人々の判断を反映できるからだ。

しかし、権力と情報が同じ集団に集中し始めると、「集合知」を標榜するこの市場が集約するのは、もはや真実ではなく、巧妙に設計された幻想かもしれない。

規制の空白での狂騒

Polymarketのストーリーは、予測市場業界全体を理解する鍵だ。2022年、当時勢いのあったこのプラットフォームは、米商品先物取引委員会（CFTC）から「未登録のデリバティブ取引市場」と認定され、140万ドルの罰金を科され、米国ユーザーへのサービス提供停止を命じられた。

数日後、Polymarketはジオブロッキングを実施し、正式に米国市場から撤退した。

2024年11月、米大統領選直前。ブルックリンの夜明け前、連邦捜査官の一団がPolymarket CEOのShayne Coplanのアパートのドアを叩き、彼のパソコンと携帯電話を押収した。

調査の焦点は、同社が和解合意に違反し、米国ユーザーの賭けを密かに受け入れていたかどうかにあった。その時点で、Polymarket上の「2024年大統領選」に関する取引量はすでに36億ドルを超えており、これはプラットフォーム史上最大の賭けとなった。

36億ドル超の資金がPolymarketで2024年米大統領選に賭けられた｜出典：Polymarket

2025年1月20日、トランプが大統領に就任し、ホワイトハウスに復帰。半年後、米司法省はPolymarketへの調査終了を発表し、告発も結果公表もなかった。

現在、Polymarketは11月末に米国市場への再参入を準備しており、スポーツベッティング事業を主力とする予定だ。

強制捜査から調査撤回まで、わずか7カ月。トランプのホワイトハウス復帰前後で状況は一変した。暗号起業家Zach Hamiltonはより率直に「なぜ予測市場が米国に再び参入できるのか、その理由は一つだけ——ドナルド・トランプだ」と語る。

ほぼ同時期に、トランプ・ジュニアの個人の動きもこの転換点と重なった。

1月20日、つまり父親がホワイトハウスに復帰したその日に、彼は規制下の予測プラットフォームKalshiに戦略顧問として参加すると発表。8月、司法省の調査が終結した直後、彼の1789 CapitalはPolymarketの新たな資金調達ラウンドをリードし、本人も顧問委員会に加わった。

この狂騒の裏には、規制当局の無力さがある。

CFTCは設立から約50年の連邦機関で、もともとはトウモロコシや牛肉などのコモディティ先物を監督していた。今や急拡大する暗号デリバティブや予測市場にも対応しなければならないが、年間予算は4億ドル未満、職員数も700人に満たない。一方、証券市場を監督するSECは20億ドルの予算と4,000人超の職員を擁する。

元CFTC職員は匿名インタビューで「我々には暗号通貨やスポーツベッティングを監督する能力はほとんどない。両者の結合など到底無理だ。CFTCは飲み込まれるだろう。予測市場でインサイダー取引が増えるのは目に見えているが、監視できず、通報や自首に頼るしかない」と明かす。

通報と自首に頼る規制は、実質的に規制がないのと同じだ。

インサイダー情報での予測は許されるのか？

規制の空白は、予測市場を情報優位が直接収益化できる狩場に変えた。

10月10日、ノーベル平和賞発表の日、Polymarketで世界中が注目するインサイダー取引疑惑が勃発した。

3カ月前から、プラットフォームでは「2025年ノーベル平和賞受賞者」の予測市場が開設され、2,000万ドル超の取引量を集めていた。人気候補にはロシア反体制指導者ナワリヌイの未亡人、米大統領トランプ、環境活動家グレタ・トゥーンベリ、WikiLeaks創設者ジュリアン・アサンジなどがいた。

一方、ベネズエラ自由党のリーダー、マリア・コリーナ・マチャドのオッズは常に3%〜5%と低く、ほとんど賭けられていなかった。

しかし、発表直前の数時間でマチャドのオッズが一気に70%以上に急騰。少なくとも3つのアカウントが同時期に大口で賭けており、単一アカウントの賭け金は数万ドルを超えていた。その取引の精度は驚くべきものだった。

ノーベル委員会の最終決定は通常、発表数時間前に決まるため、知る者はごくわずか。しかし、これらのアカウントは数時間前に大規模な賭けを行い、オッズの推移は最終結果をほぼ完璧に予測していた。

予測市場でインサイダー取引を認めるべきか否かは、業界内で常に議論の的となっている。

ジョージ・メイソン大学の経済学者で予測市場の初期提唱者Robin Hansonは、インサイダーの取引はむしろ市場の精度を高めると考えている。なぜなら情報がより早く価格に反映されるからだ。「予測市場の目的が正確な情報の獲得なら、インサイダー取引を認めるべきだ」と述べる。

この見解は一見筋が通っているようだが、より根本的な前提を見落としている。情報優位が少数者に過度に集中すれば、インサイダー取引が常態化し、一般トレーダーは市場から排除されてしまう。

個人投資家が流動性を提供しなければ、市場は縮小し、インサイダー同士の駆け引きの場と化す。こうした市場は正確でも公平でもなく、「集合知」の根幹を失う。

規制の空白は、この議論を空虚なものにしている。

現行制度下では、SECのインサイダー取引規則は予測市場には適用されない。なぜなら取引対象が「イベント」であり「証券」ではないからだ。もう一つの監督機関CFTCも、インサイダー取引に対する明確な禁止規定を設けていない。

予測市場の本来の目的は、価格で未来の可能性を測ることだった。しかし今や、それは情報ゲームとなり、より多くのインサイダー情報を持つ者が未来を先取りして利益に変える場となっている。

50万ドルの入場券

もし情報が価格付けされるなら、トランプ・ジュニアの新ビジネスでは、権力にもより直接的な値札が付くことになる。

2025年4月、トランプ・ジュニアと彼のベンチャーキャピタル1789 Capitalは、ワシントンD.C.のジョージタウンで会員制クラブExecutive Branchを設立。入会金は50万ドル、年会費は2.5万ドル。それでも設立から2カ月足らずで、ウェイティングリストは長蛇の列となった。

このクラブの創設会員リストは、まさに権力構造の縮図とも言える。

ホワイトハウスの「暗号通貨ツァーリ」David Sacks、暗号取引所Geminiの創設者Winklevoss兄弟、テック投資家Chamath Palihapitiyaも名を連ねる。

さらに注目すべきは、政府高官の集結だ。

Executive Branchのローンチパーティーには、少なくとも6人のトランプ政権閣僚級が出席。国務長官Marco Rubio、司法長官Pam Bondi、証券取引委員会（SEC）委員長Paul Atkins、連邦取引委員会（FTC）委員長Andrew Ferguson、連邦通信委員会（FCC）委員長Brendan Carr、国家情報長官Tulsi Gabbardが含まれる。

さらに、連邦捜査局（FBI）副長官Dan Bonginoも現れ、シリコンバレーの複数のCEOや創業者と乾杯した。

パーティー会場｜出典：Axios

クラブ内部の関係者は後のインタビューで、メディアやロビイストの参加を意図的に拒否し、「絶対的なプライバシー」の環境で自由に会話できる場を目指していると明かした。

こうした「プライベートな対話」の価値は、現行の政治監督フレームワークを巧妙に回避できる点にある。

米国の「ロビー活動開示法」では、ロビー活動は対象・議題・支出を公開記録する必要があるが、Executive Branchクラブのクローズドな集まりは明らかに開示対象外。同様に、「連邦諮問委員会法」の規制も受けない。

つまり、50万ドルの入場券は単なるチケットではなく、制度審査を回避して権力の中枢に直接アクセスできるパスなのだ。

このモデルは、トランプの最初の大統領任期中にワシントンにあったTrump International Hotelを思い起こさせる。

あの金色のファサードの建物は、当時ほぼ権力のハブとなっていた。

政府高官、共和党議員、外国要人、ビジネスリーダーが頻繁に出入りし、グラスを交わす会話が会議よりも効果的だった。Washington Postの調査によれば、トランプ政権時代、少なくとも22の外国政府高官があのホテルに宿泊し、トランプ自身も米国憲法の「報酬条項」違反で告発された。

だが、あのホテルと異なり、Executive Branchクラブはさらに秘匿性が高く、より高価で排他的だ。トランプホテルは半公開の商業施設で、出入りはメディアに捕捉される可能性があったが、Executive Branchではすべての会合・対話・取引が「プライバシー」のもとで行われる。

1789 CapitalがPolymarketの投資家であり、トランプ・ジュニアがクラブ創設者かつPolymarketの顧問を兼ねることで、クローズドループの利益ネットワークが形成されつつある。

さらに微妙なのは、このクラブの会員リストにはSEC委員長や司法長官といった規制当局者もいれば、予測市場の投資家やプラットフォーム幹部もいる点だ。規制する側とされる側、投資する側とされる側が同じテーブルを囲むと、「境界線」は意味を失う。

米国行政部門の人事や行動を監督する「Revolving Door Project」のエグゼクティブディレクターJeff Hauserはこれに公然と疑問を呈している。

彼は、Polymarket自体が政治的に物議を醸す存在であり、トランプファミリーの二重の立場は規制の方向性に影響を与え、規制緩和から利益を得る可能性があるため、権力と資本の境界が曖昧になると指摘。この重複関係こそ、典型的かつ厳格に回避されるべき「利益相反」だと述べた。

外部からの疑問に対し、ホワイトハウス報道官Karoline Leavittは「大統領およびその家族は、これまで一度も、そして今後も利益相反に関与することはない」と回答した。

もはや未知ではない未来

予測市場の理論的基盤は、ノーベル経済学賞受賞者フリードリヒ・ハイエクの「知識の分散」理論にさかのぼる。

ハイエクは、価格は単なる取引の結果ではなく、社会的なシグナルであり、無数の個人に分散した断片的な知識を全体の情報システムに集約するものだと考えた。

予測市場はこの思想の延長であり、人々が実際に資金を賭けて未来を予測することで、分散した判断や信念を価格という確率に凝縮しようとする。

だが、ハイエクの理論にはしばしば見落とされる前提がある。市場が知識を集約できるのは、情報が参加者間で比較的分散しているからだ。

ごく少数が圧倒的な情報優位を持つと、価格は集合知ではなく、権力と資源の流れを映すだけになる。その時、市場は知識の集約装置から、富の移転装置へと退化する。

ノーベル賞発表直前の精密な賭けは、市場の効率性を証明したのではなく、いわゆる市場の合理性が、時に少数者が握る情報の幻想に過ぎないことを示している。

予測市場の核心的な約束は、不確実な未来を取引可能な資産に変えることだ。この約束は、「未来は未知であり、すべての参加者が自分の持つ部分的な情報で未来を推測する」という根本的な仮定に基づいている。

だが、本当に権力を握る者にとって、未来は必ずしも未知ではない。彼らにとって「予測」とは、「未知の未来を推測すること」ではない。

司法長官がPolymarketを起訴するか否かを決め、SEC委員長が業界全体の規制範囲を再定義でき、こうした意思決定者の家族がこの市場の投資利益に深く関与している場合、彼らが取引しているのはもはや不確実な未来ではなく、自らの権力で定義された「確実性」そのものだ。

Truth Predictの登場は、この論理を極限まで推し進める。プラットフォーム運営者やその家族が、そもそもこれらのイベントの結果を左右できる立場にある時、「予測」という言葉は意味を失い、不確実な未来ではなく、権力による結果の事前価格付けに過ぎなくなる。

左から順にVivek Ramaswamy、オハイオ州上院議員Bernie Moreno（共和党）、Omeed Malik、副大統領J.D. Vance、トランプ・ジュニア｜出典：POLITICO

ブロックチェーン技術は、すべての取引を公開台帳に記録できるため、誰もがすべての賭けの流れを追跡できるように見える。しかし、この透明性はウォレットアドレスの可視化にとどまり、その背後の操作者の身元までは分からない。

ノーベル賞発表前の数時間にPolymarketで誰が精密な賭けをしたのか、政策発表前にHyperLiquidで誰が正確なポジションを取ったのか、誰も知らない。

今後、同じ論理がTruth Predictに持ち込まれ、大統領ファミリーが直接または間接的に主導するプラットフォームで、選挙・金利・戦争に賭けられるようになれば、取引の透明性はもはや重要ではなくなる。本当に重要なのは、誰が結果を事前に知り、あるいは自分の意志通りに結果を動かせるかだ。

そして、その答えはExecutive Branchクラブという「プライバシー」に守られた一角にしか存在しないのだろう。